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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)365号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡崎耕三、同岡本栄、同小倉康平の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、同第二点は、単なる法令違反の主張であり、同第三点のうち憲法三八条三項違反をいう点は、記録によると、原判決及び一審判決は被告人の自白だけで犯罪事実を認定したものではないことが明らかであるから、所論は前提を欠き、その余は、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律一一条にいう「捕獲」とは、鳥獣を自己の実力支配内に入れようとする一切の方法を行うことをいい、鳥獣を現に自己の実力支配内に入れたか否かを問わないものと解するのが相当である(大審院昭和一八年(れ)第九六六号同年一二月二八日判決・刑集二二巻三二三頁参照)から、被告人が原判示公道上において狩猟鳥獣であるカモに向け狩猟を発射したこと自体によつて同条三号違反の罪が成立するとした原審の判断は、正当である。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(江里口清雄 高辻正己 環昌一 横井大三)

弁護人岡崎耕三、同岡本栄、同小倉康平の上告趣意

第一点

原判決は、最高裁判所の判例と相反する判断をしたものである。

被告人が発射した三発の猟銃弾は同人が狙つたカモに命中せず、被告人において当該カモを現実に捕捉することも又、実質的支配内においた事実もないこと証拠上、明らかであるにもかゝわらず、原審は被告人の行為につき「捕獲した」ものと認定した。

しかしながら、鳥獣保護及狩猟に関する法律第一号の四第三項にいう「捕獲した」というのは「狩猟鳥獣を現実に捕捉するか、少なくとも同鳥獣を容易に捕捉しうる状態において、同鳥獣が右状態においた者の実質的支配内に帰属するに至つた」ことを意味するものと解するのが判例(最高裁昭和二九年三月四日判決、最高裁判例集八巻三号二二八頁参照)であり、右解釈は同法第四条、第五条、第一一条にいう「捕獲した」と同義に解すべきであつて、しかりとすれば原審は最高裁判所の判例と相反する判断をしたものである。

第二点

原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある。

鳥獣保護及狩猟に関する法律第一一条にいう「捕獲した」というのは、同条第一六条にいう「銃猟した」というのとは異なり「現実に捕捉するか少なくとも鳥獣を容易に捕捉しうる状態において、鳥獣が右状態においた者の実質的な支配内に帰属するに至つたことを意味すると解すべきであるのに、原審はこの点の解釈を誤り「捕獲した」とあるを「銃猟した」と同意義に解し判決したが、これは判決に影響を及ぼすべき法令の違反である。およそ、刑罰法規を解釈するに当つては法益保護の目的、行為の性質等を検討して目的論的方法によりその法規の規範的意味を決定しなければならないが、それは罪刑法定主義の原則によりあくまでその法規に用いられた語句の可能な意味の限界を超えてはならない。

これを本件についてみるに、鳥獣保護及狩猟に関する法律は鳥獣保護のため種々の禁止規定を設けているが、その態様をみると「捕獲」を禁止したり、(一条の四、三条、四条、一一条等)「狩猟」を禁止したり(一七条、一八条)、「銃猟」を禁止したりし(一六条等)、「捕獲」、「狩猟」、「銃猟」という言葉を各禁止目的に従い一応合理的に使いわけており、更に「捕獲」の日常的意味が「とらえること。つかまえること。いけどること。とりおさえること。」であり、「銃猟」とは銃による狩猟行為自体、「狩猟」とは銃の使用に制限されない狩猟行為自体を意味するものであるから、これを合理的に使いわけている同法の趣旨に照して考えると、「捕獲」とは前記「狩猟」あるいは「銃猟」と異なり「鳥獣を現実に捕捉するか少なくとも同鳥獣を容易に捕捉しうる状態において鳥獣が右状態においた者の実質的支配内に帰属するに至つた」ことを意味すると解するのが相当であつた。

第三点〈省略〉

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